電脳化する肉体
同化する「なりきり人間」
記者 リングでの姿からは想像しづらいんですが、佐竹さんて、怪獣やSF関係の人 形とかキャラクター商品の収集家としても有名ですよね。子ども時代からなんですか。
佐竹 そう、マンガも好きだったし、テレビっ子でしたから。
記者 今回のテーマであるアニメ映画『GHOST IN THE SHELL−攻 殻機動隊』はサイボーグものですが、この手のも得意でした?
佐竹 もちろん。石ノ森章太郎の「サイボーグ009」では004が好きだった。 「人造人間キカイダー」とか「ロボット刑事」とかもね。あんまり有名じゃないけど、 昔、透明なプラスチックでできた「変身サイボーグ」って人形があって、よく着せ替え して遊んでましたよ。
記者 そのあたりの時期って、空手を始めたのより早いんですか。
佐竹 早い、早い。空手始めたのだって、週間少年ジャンプのマンガ『リングにかけ ろ』に影響されたようなところがあって……。
記者 あら、『空手バカ一代』ではない?
佐竹 『空手バカ』を読んだのは、空手を始めてからでしたね。
記者 マンガ版の『攻殻機動隊』も、すでに体験済みですか。
佐竹 当然。これは、マニアとして、とりあえず押えるべきマンガですから。
記者 あのう、私はずっと前に買ってあったんですが、十数ページでギブアップして しまった。今回は仕事だからさすがに読み通しましたが、だいぶ、がんばったなぁ。
佐竹 もしかして、コマの外にある解説、読んだんでしょう。みんなあれに引っ掛 かって先に進まなくなる。
記者 佐竹さんの場合は?
佐竹 描かれているイメージを、勝手に解釈して楽しんでました。ぼくは抽象的な電 脳世界は得意なんですよ。
記者 パソコンも?
佐竹 マックとかPC98とか、三台持ってます。
記者 そういうのが違うのかなぁ。私にはアニメ版の電脳イメージの方が、ぐんと入 りやすかったです。
佐竹 「自分とは誰か」「人間とは何か」を問うメッセージ性が断然強くなってます ね。
記者 八○年代のサイバーパンクSF小説の影響も見えますが、やっぱり映画。香港 らしき雨の街は「ブレードランナー」を連想しました。私ら中年にも、容易に入ってい ける。
佐竹 主人公のサイボーグ草薙素子の性格も、マンガより禁欲的で、考え深げになっ てましたね。
記者 映画の素子は、人工物でできた自分の肉体に関しては、すごく突き放した感覚 の持ち主で。
佐竹 格闘をするものにとって、ああいう感じ、よく分かるなぁ。ぼくらもリングの 中では、自分の筋肉でよろいをつくってるイメージですからね。片っ方のこぶしは斧 (おの)で、もう一方は銃。超合金ロボットみたいな。
記者 それは、なにか効果とか……。
佐竹 脳の中で「なれ、なれ」と意識し続けてると、筋肉のつき方が変わってくる。 ボディービルダーは、鏡の中に、理想の肉体を描きながら訓練するって聞きますよ。
記者 強い肉体は、思い込みと想像力がつくる。
佐竹 そうかもしれない。ぼくは映画とか見ると簡単にヒーローに同化しちゃう「な りきり人間」ですからね。この髪型は、映画の「ターミネーター」を見た後、あれくら い強くなりたいと思って、まねてみた。
記者 今は髪がつっ立ってて、人気格闘ゲームのキャラクターみたいにも見えますけ れど。
佐竹 それは逆、逆ですよ。ゲームキャラが佐竹雅昭という人間に影響を受けてでき あがっているんですよ。
記者 現実と虚構が佐竹さんのところで相互乗り入れしてる。映画『攻殻機動隊』に は「なりきりたい人間」はいませんでしたか。
佐竹 素子の同僚、バトーはいい男。ですが、選んだ義体の趣味がよくないかな。ア イドル系過ぎて。
記者 もしかして美少女のフィギュア(人形)とかにもウルサイんですか。
佐竹 まあ、一通りはそろえています。これも、マニアとしては、押えるべきアイテ ムですから。