西暦 2029 年。ここはアジアの一角に横たわる、奇妙な企業集合体国家。通信ネッ トワークの脅威的な発達で、個人は世界中のあらゆる情報をいながらにして入手で きるようになり、それら膨大な情報を、処理・操作するための高度な電脳技術が、 存在していた。そして一方、人間の身体はマイクロマシン技術の発達によって、義 体−−サイボーグ化−−され、脅威的なパワーを持つ人体が、誕生していた。

「便利なものよね。その気になれば体内に埋め込んだ化学プラントで、血液中のア ルコールを数十秒で分解して素面に戻れる。だからこうして待機中でも飲んでいら れる。それが可能であれば、どんな技術でも実現せずにはいられない、人間の本能 みたいなものよ。代謝の制御、近くの鋭敏化、運動能力や反射の飛躍的な向上、情 報処理の高速化と拡大。電脳と義体によって、より高度な能力の獲得を追求したあ げく、最高度のメンテナンスなしには生存できなくなったとしても、文句をいう筋 合いじゃないわ。」

 人工知能−−AI−−を持ったロボットと、肉体のほとんどを義体化したサイボー グとを隔てる物、それが一般に ghost と呼ばれる−−もしかしたら「魂」と呼ばれ る−−、人間のアイデンティティを司る部分である。

「考えすぎなんじゃない? 今のところ、何の根拠もないし」
「根拠ですって? ……そうささやくのよ。私の ghost が」

 こうした超高度ネットワーク社会の中、犯罪は高度化し、より凶悪・複雑なものへ と変容していく。そしてついには ghost に潜入し、その人間の人格を操作・乗っと る、ghost hack と呼ばれる犯罪が発生するに及んだ。

「疑似体験って……、どういうことです?」
「だから、奥さんも娘も離婚も浮気も、全部偽物の記憶で、夢のようなものなんです。 あなたは何者かに利用されて、政府関係者に ghost hack を仕掛けてたんですよ」
「そんな、まさか……」
「あんたのアパートに行ってきたんだ。誰も居やしない。一人もんの部屋だ」
「だから、あの部屋は別居のために借りたアパートで
「あんたはあの部屋でもう、10 年も暮らしているんだよ。奥さんも子供も居やし
ない。あんたの頭の中にだけ存在する家族なんだ」

 こうした犯罪に対し、公的機関では対処できなくなった政府は、非公然の超法規特 殊実行部隊を創設した。公安9課、通称攻殻機動隊である。


 そしてここに人形使いと呼ばれる、正体不明の ghost hacker が現れた。

「人形使いって、あの正体不明の hacker が?」
「国籍推定アメリカ。年齢・性別・経歴、全て不明。去年の冬ころから主に EC 圏に出没。株価操作・情報収集・政治工作・テロ・電脳倫理侵害・その他10数件の 容疑で国際手配中の犯罪者。不特定多数の人間を ghost hack して操る手口から付 いたコードネームが『人形使い』。この国に現れたのは始めてのはずよ」

 目的も、その動機も不明なままに、人形使いは攻殻機動隊に対して、アクションを 開始した。

「外務大臣の通訳だ。23分ほど前、電話回線を経由して、電脳に hacking された。 某国情報筋の警告通り、人形使いがネットの各端末に介入し始める。ガベル共和国 との秘密会談に対する妨害工作の可能性が濃厚だったので、出席者全員に網を張っ て待っていたんだ。おそらく彼女の ghost を hacking して会談を襲撃させるつも りだったんだろう。


 こぼれ落ちるキーワード、project 2501。これは一体何を意味するのか。

「人工知能か。AI ではないのか。私の方では project 2501。私は情報の海で発生 した生命体だ」

 人形使いの正体とは? その目的は? そして project 2501 とは? ネットワー ク犯罪・政治的謀略・ボーツとの存在意義などが絡み合ったまま、攻殻機動隊隊長 草薙素子は、最後の戦いのトリガーを引く。


番組の流れに戻る 攻殻機動隊のページに戻る

ID number G24M21T007773

yohta@bres.tsukuba.ac.jp