押井守インタビュー

 それではね、お待たせ致しました。攻殻機動隊、あの人に聞きたい Part II。
 押井守監督の登場です。録音の準備はいいかな? うん、もう何 も云わなくてもいいよね。早速いきましょう。


 押井作品には、犬・立ち食いそばが良く出てきますが、今回の映画にもそれ にまつわる描写はあるんですか。

 犬はあちこちたくさん出てきますので、それとわかりにくい部分もあるとお もいますけれど、探してもらえば……、あまり意味ないといえば意味がな いんですけども、僕にとってはとても意味のある使い方をしているんですけ れども。まあ、たぶんぱっと見にはわからないと思います。
 そばの方は、バトーが市場でラーメンを食ってるとかね、そういうふうな シーンがやりたかったんですが、残念ながら、映画の時間が短いので、遊ん でる場合じゃなかったんで、ちょっと今回はおそばはやってません。

 原作は日本なのに、映画ではなぜ香港を舞台にしたんでしょうか。

 士朗さんの原作では確かに日本になってるんですけど、多分士朗さんのお住 いになってる、神戸の街がモデルだと思うんですけれども。映画にする時に なぜ香港をモデルにしたか、ということなんですけども、日本の近未来って いう風なね、40年後ぐらいの未来都市っていうの、それは大変難しいんです よね。嘘がつきづらというか、みんな知ってるだけにですね。これがちょっ と外国になるとですね、嘘がつきやすくなるというか、特に今回はその、い わゆる未来都市みたいな形にしたくなかったので、7割ぐらいは現実の風景、 その延長線上になんか未来的なものが見えるというような街にしたかったの で、東京とか神戸とかだと、ちょっと難しくなりますので、それでまぁ香港 というようなアジアの街の中で、一番こう何というんだろう、混沌としてるっ ていうんですかね、そういう街を舞台にすれば、わりとこう密接した風景の 向うに未来が見えるというような、そういう構図を作りやすいと思ったので。 それでまぁ今度は日本の街を避けて、今回はアジアの街を舞台にしたわけで す。

 ロボットとサイボーグとの(テープをひっくり返して消えました;_;)

 たぶん、僕の個人的な興味としては、サイボーグというものに興味があった というのもありますので、今回の映画で描いているようなタイプのサイボー グというのは僕は実現しないと思いますね。それ以前の、人工臓器であると か、人工骨格であるとか、非常にこう感覚器であるとか、そういったものが 実現する可能性は十分にあると思います。ロボットに関しては、やはり 人型のロボットとしては、たぶん登場してこないんじゃないかと、思います ね。で、専門的なロボット、産業ロボットみたいなもののライバルみたいな、 人型のロボットが出てくるっていうような未来はあんまり可能性としてはな いんじゃないかというね。

 押井さんにとって、ghost とはなんでしょう。

 ghost ってのは、とても難しい概念ですね(笑)。正確には誰にもわかんない んじゃないかしら。今回映画を作ったスタッフの中でも「ghost ってなんだ?」 って話しになって、イギリスのプロデューサーにも相当しつこく訊かれたん ですけれども、最終的には士朗さんに訊いて下さいとしか言いようがなかっ たんですねぇ。
 僕の理解した ghost っていうのは、なんかたぶんたぶん人間にももちろ んありますけれども、犬や猫にもあるし、もしかしたら植物にも あるんじゃないかと思いますねぇ。うーん、例えばコップであるとか、金属 であるとかね、そういう「物」にはないものじゃないかと。じゃあ、ミーティ リってのは ghost になるのかというと、それは水に ghost があるのか、と いうとそのへんはちょっと難しい、そこから先はちょっと難しい話しになり ますけど。
 たた、たぶん士朗さんが考えている ghost というのは、いわゆる spirit、 っていうか魂のことではなさそうだと。自意識のことでもなさそうだし、た ぶんやっぱり士朗さん独特の概念なんだと思いますけれども。
 僕の理解してる範囲で言えば、僕にとっては、夢、今確実にたぶん ghost があるような気がします。たぶん夢をみる感覚っていうのかな、夢をみる存 在なら、ghost を持っているというふうな、僕はそんなような考え方をして います。

 銃器の音などは、海外で本物を使用して録音したそうですが、そこまでこだ わった理由はなんでしょう。

 銃器の描写っていうのは、なんでここまでやるかっていうと、僕が鉄砲が好 きだからってことになるんですけれども、まぁそういう個人的な問題以外に ですねぇ、アニメーションの中での銃器の表現っていうのは、やっぱり、な んていうんだろう、納得できなかったっていうふうなことが前提にあります。 それはもちろんアニメーションだけではなくて、実写の中に出てくる銃器の 表現とかにも当然あるんですけれども、特にアニメーションの場合には、ア メリカ映画の影響でしょうね、そういうシーンがとても多いので、実際に銃 を撃ったり見たりした感じからすると、だいぶ違うんじゃないかという印象 を持ってましたので、今回ちょうどいいチャンスなので、まぁできるだけの ことはやってみようと思ったわけです。ただもちろん時間もお金も限界があ るわけですから、やる範囲でということですけれども。結果はまぁ今までの アニメーションの中の銃器の表現とは、一線を画せたんではないかと。なか なかうまくいったような気が、僕はしています。

 原作に登場する兵器フチコマが、映画ではでてこないのはなんでですか。

 たぶん士朗さんのファンの方にとってはフチコマの出てこない攻殻機動隊っ ていうのは納得できないかもしれないんですけれども、フチコマを出さない ことにしたのは、この企画が動き出した最初の段階でもう決めていたことな んです。
 いくつか理由はあるんですけれども、一番大きな理由はフチコマの声をど うしようかという。AIを載せたロボットということになってるんですけれ ども、AIというものを表現できる声というものが漫画の場合は活字で表現 できるわけですけど、肉声になった場合どんな声優さんが演じても、あるい はこう電子的に加工してもですねぇ、ようするに今までアニメーションに登 場したアーデルロボットの流れになってしまいそうで、わりとシリアスな内 容に合わないというふうな気がしたわけです。もう一つは、主人公の素子と いう女性がサイボーグなわけですけど、サイボーグである主人公を十分に表 現したいというときにですね、その傍らに人工知能を搭載したロボットとい うふうなアイテムが置かれるのは、ちょっと僕としては非常に演出しづらい というふうな、ちょっと考えましたので、まぁ基本的に他のいろんな通信用 の実際なロボットも出てくるわけですけれど、それに関してはいないことに してます。で、もうひとつ最大の理由ですけれども、香港をモデルにした架 空の街の中にですね、フチコマをどう置いても、やっぱり合わないというふ うに思ったんです。それでまぁフチコマには今回は消えてもらったと、い うふうに。まぁそういうことですね。
 次回作は、何を作ろうとお考えですか。実写? それともアニメですか?

 えーと次回作。そろそろ考えなきゃいけないんでしょうけれども、今はとに かく疲れちゃったので、今年いっぱいはとりあえず遊んでですね、来年になっ たら考えようかな、という。お話しもいくつか来ているんですが、今の所い わないでおいてくれ、といわれてますんで、個人的な願望としてはですね。 アニメーションが2本続きましたので、できれば次回は実写作品をやってみ たいなとふうに思っています。

 映画のような近未来は来るとお考えですか。

 今回攻殻機動隊という作品で描いた、まぁ近未来ですね、人間が電脳化され ていて、サイボーグが街を歩いていて、でネットワークで全てが結ばれてい てという、そういうふうな近未来の社会ってものが来るとは、僕は思ってい ません。あくまで(?)なわけで、一番無いのは人間が電脳化された社会と いう考え方ですね。これはもう未来とかまあ最終的には未来というふうな舞 台を借りて現代を語る為の、設定としては非常に面白いと思うんですけれど も。人間の脳が結局そのデジタルな情報を処理するというような、そういう 世の中が来るかというと、それは技術的にも社会的にもたぶん不可能なんで はないかというふうに、思っています。一つの比喩として、僕らがパソコン のモニタを前に仕事をしたり会話したりすることの比喩として、あくまで 考えた世界なわけで、そういう社会が現実にくるかどうか、ということにな れば、僕は来ないと思うし、そういう世界に住みたいという気もあまり実は していません。
 はい、いかがでしたか。よかったでしょう? 満足できたかな。この話しを聴いて、 映画を観ると、この映画が何倍も面白くなる、ね?

 以上攻殻機動隊あの人に聞きたい PartII でした。


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