個人的メディアとしてのインターネットの利用

                           横田 充 (学籍番号 963244)

                           指導教官 山本 眞理子 教授

                                吉川 肇子  講師

   本論文では,インターネットというメディアを利用することで,私たちがコミュニケー

   ション場面において用いている自己呈示行動が,対面場面およびネット上それぞれの場

   において,どのように変化するのかについての検討を試みた。本研究は,個人Webペ

   ージを利用しておこなわれる自己呈示行動を,次の3つの視点から検討した。第1の視

   点は,Webページそのものに含まれている自己呈示行動についての検討である。第2

   の視点は,Webページ制作者がどのような自己呈示行動をおこなっているかについて

   の検討である。そして最後の視点は,Webページを利用することによっておこなわれ

   た自己呈示行動がどのように受け取られるのか,という,Webページを観る者の立場

   からの検討である。3つの研究の結果,Web制作者たちが自己呈示するコミュニケー

   ションツールとしてWebページをどのようにとらえているのか,そしてWebページ

   を利用した自己呈示行動にはどのような特徴があるのかが明らかになった。

<研究1> Webページ上での“自己紹介”の特徴

1.目的

 Webページでの自己紹介によって,Web制作者が自己呈示していることを確認する。

2.方法

 1997年4月27日時点において『ASAHI NET』から自己紹介を掲載してあるWebページ145件を対象とし,Webページでの項目記載内容を変数として数量化V類による分析をおこなった。

3.結果と考察

 図1に示したように,以下の4つの自己紹介の特徴がWebページに存在することが分かった。

(1)「自己演出的」・・・自分の通称(ハンドルネーム)や性格についての記述をする。

(2)「暗黙の性格論」・・・血液型や星座などを記述することによって,観る者の性格についてのステレオタイプを喚起させようとしている。

(3)「履歴的」・・・出身地や学歴など,履歴書に掲載するような内容を記述する。

(4)「匿名的」・・・年齢をぼかしたり,ぬいぐるみの写真を本人と称して掲載するなど,Webページ制作者の姿が全く分からないもの。

 特に,「自己演出的」や「暗黙の性格論」などの内容を盛り込むことで,Webページで自己呈示していると考えられる。また「匿名的」な内容を載せる事が可能である事は,Webページが自己呈示の容易なコミュニケーションツールであることを示している。

                      

図1 「自己紹介」のカテゴリーのT-U次元平面上の布置

<研究2> Webページ制作者の自己呈示

1.目的

 Webページを利用して自分の印象を伝える事は,どの程度可能であるとWeb制作者たちは考えているのかを検討する。ここでは「個人的親しみやすさ」「社会的望ましさ」「活動性」の対人認知の3次元について,それぞれWeb制作者が伝えたいと思う印象の自己評定を比較検討した。

2.方法

 筑波大学生で個人Webページを持つ者15名を調査対象者とした。そのうち,週に1回以上Webページを更新する者を多更新頻度群(8名),2週間に1回以下でしか更新しない者を少更新頻度群(7名)とした。Web制作者に対面場面で自己紹介をさせ,「対面場面で相手に与えることの出来た自己印象」を自己評定(対面自己評定値)させた。また「Webページでの自己(Web自己評定値)」,「普段の自己(印象自己評定値)」についても,それぞれ自己評定させた。「個人的親しみやすさ」「社会的望ましさ」「活動性」の対人認知の3次元それぞれにおいて,自己評定値を算出した。また,Web制作者のパーソナリティ尺度も測定した。

3.結果と考察

 研究2から得られた主な結果は次のとおりであった。

@社会的望ましさ次元において,Web制作者たちの印象自己評定値が対面自己評定値およびWeb自己評定値よりも大きかった。

A活動性次元において,Web制作者たちのWeb自己評定値が対面自己評定値よりも大きかった。

B多更新頻度群の公的自己意識尺度得点が少更新頻度群よりも小さかった。

 以上の結果から,Webページの更新頻度の差に関係なくWeb制作者たちは,Webページでは普段の自分の誠実さや知的さといった社会的に望ましい側面を呈示出来ないと考えていることがわかった。また,対面において直接コミュニケーションをするよりも,Webページを利用して自己呈示をおこなった方が,活発さや社交的といった自分の活動的な側面を伝えることが出来ると考えていることも明らかになった。これは,社会的な望ましさは,お互いにコミュニケーションを繰り返すことによって培われるものであり,Webページや初対面での自己紹介のような,その場限りという色合いの濃い対人コミュニケーション場面では表現しきれないと考えているからだと思われる。また,Webページという新しいメディアを使いこなしているという自信が,Webページでは自分の活動的な側面が評価されるはずだ,という考えに結びついていると思われる。そして,Webページの更新を頻繁におこなう者ほど「自分をどのようにして見せようか」ということをあまり意識していないことがわかった。これは,Webページでは他者からのフィードバックが得にくいことが一つの要因であると考えられる。

<研究3> Webページ制作者の自己呈示の影響力

1.目的

 Web制作者たちがWebページを利用することによって呈示した自己像は,どの程度思い通りの印象を与えることが出来ているのかを検討する。これにより,Webページを通しておこなわれる自己呈示がどのように効果的であるのかについて考察する。

2.方法

 研究2で被調査者となったWeb制作者15名のWebページを紙面に印刷したものを“Webページ”,彼らが対面で自己紹介をした時の内容を文章にして印刷したものを“対面ページ”として,早稲田大学生47名に印象評定させた。被験者は,評定するページによって,以下の4つの実験条件にランダムに割り当てられた。

(1)多更新頻度群の“Webページ”を評定する,「多更新頻度Web評定群」10名。

(2)多更新頻度群の“対面ページ”を評定する,「多更新頻度対面評定群」13名。

(3)少更新頻度群の“Webページ”を評定する,「少更新頻度Web評定群」13名。

(4)少更新頻度群の“対面ページ”を評定する,「少更新頻度対面評定群」11名。

 従属変数として,各実験群に割り当てられた被験者の印象評定値を,対人認知の3次元ごとに算出した値を使用した。また,Web制作者の呈示したい自己像が,被験者が彼らから受け取る印象とのズレを以下の式によって算出した。なお,Web自己評定値および対面自己評定値は,研究2にて各Web制作者ごとに測定した値である。

    Webズレ得点 = Web自己評定値 − Web評定得点

    対面ズレ得点  =  対面自己評定値  −  対面評定得点

3.結果と考察

 研究3から得られた主な結果は次のとおりであった。

@社会的望ましさ次元において,少更新頻度群のWeb評定値が多更新頻度群のWeb評定値よりも大きかった(図2)。 これは,Webページが誠実さなどの側面を呈示し続けることが困難なメディアである可能性を示している。

A活動性次元において,少更新頻度群よりも多更新頻度群の対面評定値が小さかった(図3)。多更新頻度群の人たちは,対面では活動性を伝えられないような人たちである可能性が伺える。彼らはWebページを利用することによって,活動性を呈示する事が可能になるといえる。

B親しみやすさ次元において,多更新頻度群のWebズレ得点が小さかった(図4)。 これは,更新を繰り返すほどWebページでは親しみやすさが本人が思う程には評価されにくくなることを示している。

C望ましさ次元において,対面ズレ得点が多更新頻度群よりも少更新頻度群で小さかった(図5)。

これは,Webページを更新することにより,Web制作者がノンバーバルに頼らないコミュニケーションを学びとり,それが対面での自己紹介のなかにも含まれてきている結果であると解釈できる。

   

     図2 評定ページ別の望ましさ次元の評定値         図3 評定ページ別の活動性次元の評定値

     (実線は有意差,破線は有意差ではない。)         (実線は有意差,破線は有意差ではない。)

    

   図4 親しみやすさ次元におけるズレ得点の比較       図5 望ましさ次元におけるズレ得点の比較

    (実線は有意差,破線は有意差ではない。)         (実線は有意差,破線は有意差ではない。)

<総合考察>

 本研究により,Webページは対面において活動的な自己の側面を伝えることの出来ない者にとってはそれを伝える事の可能なコミュニケーションツールであるが,一般的に社会的な望ましさを呈示し続けることが難しいことがわかった。また,本人が思うほどには制作者の印象は高く評価されないことも明らかになった。